事業計画書は、社内の思考整理にも使いますが、多くは誰かに何かを判断してもらうために作ります。融資の可否、出資の可否——。だからこそ、良い事業計画書の出発点は、体裁でも分量でもありません。「これを読む相手は、何を見たいのか」です。
読む相手で、見たいものは変わる
同じ会社の事業計画書でも、読み手によって知りたいことは大きく異なります。
- 金融機関:貸したお金が返ってくるか。返済力、収益の安定性、リスクへの備え
- 投資家:この会社は大きく伸びるか。市場の大きさ、成長性、将来の絵
金融機関に成長の夢ばかり語っても響かず、投資家に手堅さばかり示しても物足りない。相手が判断に必要としているものから逆算するのが、伝わる計画書の第一歩です。
基本の構成要素
力点は相手で変わりますが、土台となる要素は共通しています。
- 事業概要:何をやっている会社か、何が強みか
- 市場と競合:どんな市場で、誰と、どう戦うか
- 戦略:どうやって売上と利益を作っていくか
- 数値計画:損益計画と資金計画(お金の裏付け)
- リスクと対策:うまくいかない場合に、どう備えるか
特にリスクへの言及は、軽視されがちですが重要です。都合の良い話だけの計画は、かえって信頼を損ないます。
数字は、保守的に・根拠とともに
事業計画書の説得力は、数字の作法で決まります。ポイントは2つ。希望的観測ではなく、前提の根拠を説明できる数字で作ること。そして、その前提を明示することです(金融機関向けは特に保守的に、投資家向けは野心的でも前提と整合させます)。「売上が毎年2倍」といった威勢のいい計画は、根拠がなければ逆に不信を招きます。実績に紐づき、前提を説明できる数字こそが、信頼されます。
立派な体裁より、相手が判断できる中身。事業計画書は、読み手のためにある。
ストーリーと数字を、つなげる
良い事業計画書は、言葉で語る戦略(ストーリー)と、数値計画が、きちんとつながっています。「この戦略を実行するから、この数字になる」という筋が通っていること。戦略と数字がバラバラだと、どれだけ各パートが立派でも、全体として信じてもらえません。両者を一本の線でつなぐことが、計画書の完成度を決めます。
売上計画を、掛け算に分解する
数値計画でもっとも疑われやすいのが、売上高です。「来期は1億2,000万円」と総額だけ置いても、根拠を問われた瞬間に説明が止まります。売上は、単価と数量の掛け算に分解してから積み上げるのが基本です。
法人営業 = 商談数 × 受注率 × 平均受注単価
継続課金 = 期首顧客数 ×(1 − 解約率)× 月額単価 + 新規顧客数 × 月額単価
分解する目的は、細かく見せることではありません。単価と数量に、それぞれ別の根拠を持たせるためです。根拠の持ち方は、次のように分けて考えます。
- 単価の根拠:直近実績の平均単価、価格表、過去の見積書・契約書。値上げを織り込むなら、いつから、どの顧客層に、いくら上げるのかまで書く
- 数量の根拠:過去数期の実績推移、営業人員の数と1人あたり実績、席数・生産ラインといった物理的な上限
特に見落とされるのが、数量側の上限です。計画上の数量が、いまの設備や人員で処理できる量を超えていないか。ここを確認しないまま積み上げると、計画ではなく願望になります。
年間売上高 = 250万円 × 12ヶ月 = 3,000万円
能力上限 = 20席 × 1日3回転 × 25営業日 = 1,500人/月
計画客数1,000人 ÷ 上限1,500人 = 約66.7パーセント
この形にしておくと、「客単価を100円上げたら」「1日あたり5人増やしたら」という問いに、その場で答えられます。読み手が知りたいのは総額ではなく、その総額がどの数字の積み重ねで出ているかです。
費用は、固定費・変動費・準固定費で組む
費用計画を「昨年並みに5パーセント増」で作ってしまうと、売上が伸びても利益が伸びない計画になります。費用は性質で3つに分けて組み立てます。
- 変動費:売上に比例して動く(仕入、材料費、外注費、決済手数料)
- 固定費:売上に関係なく発生する(家賃、リース料、保険料)
- 準固定費:一定の売上規模までは変わらず、超えると階段状に増える(人員、拠点、システムの利用枠)
限界利益 = 売上高 − 変動費
営業利益 = 限界利益 − 固定費 − 準固定費
限界利益 = 250万円 − 87.5万円 = 162.5万円
営業利益 = 162.5万円 − 固定費140万円 = 22.5万円
準固定費を分けておく意味は、増員や出店の判断が、計画上どこで効いてくるかが見えることにあります。人を1人増やす月に人件費が段差として立ち上がり、その段差を吸収できるだけ売上が伸びているか。これが数字で確認できる形にしておきます。
費用計画のチェックリスト
- 人員計画表の人数と、人件費の金額が一致しているか
- 売上が伸びる月に、変動費も同じ率で伸びているか
- 採用・出店・設備導入の月に、費用が階段状に増えているか
- 社会保険料の会社負担分、採用にかかる費用が抜けていないか
- 設備投資を計画したなら、その後の減価償却費が費用に入っているか
利益計画を、資金計画につなぐ
ここが、事業計画書でもっとも差がつくところです。利益と現金は一致しません。損益計画だけを提出して、資金の裏付けを聞かれて答えられない、という場面は珍しくありません。
現金の増減 = 税引後利益 + 減価償却費 − 運転資本の増加 − 設備投資 + 借入調達 − 借入元本返済
押さえるべきは2点です。減価償却費は費用だが、現金は出ていかない。そして借入の元本返済は現金が出ていくが、費用ではない(費用になるのは利息だけです)。この2つを取り違えると、損益は黒字なのに資金が尽きる計画ができあがります。
− 運転資本の増加 400万円 − 設備投資 300万円 − 借入元本返済 240万円
現金の増減 = マイナス140万円
黒字600万円の計画でも、現金は140万円減ります。売上を伸ばすほど売掛金と在庫が増え、現金は先に出ていくためです。成長計画ほど、資金計画を並べる必要があるのはこのためです。
計画の粒度と、月次への落とし込み
粒度は、初年度は月次、2年目以降は四半期または年次、が扱いやすい形です。年次の数字を12で割って月次にすると、実態から離れます。月に落とす際は、次の3点を調整します。
- 季節変動:過去の月別実績の構成比を使い、年間売上を配分する
- 入金・支払サイト:売上を計上した月と、現金が入る月をずらす。仕入の支払いも同様にずらす
- 特定月に偏る支出:賞与、年払いの保険料・システム料、繁忙期前の仕入前倒し
そのうえで、月次表の最終行に月末現預金残高を置きます。どの月もマイナスにならないか。ここが計画の生命線です。
提出前の読み返し手順
- 売上が単価と数量に分かれ、それぞれ別の根拠が示されているか
- 数量が、いまの人員・設備の能力上限を超えていないか
- 費用が固定・変動・準固定に分かれ、売上の増加に連動して動いているか
- 人員計画の人数と人件費、設備投資と減価償却費が一致しているか
- 借入の元本返済を費用に入れていないか。逆に、利息を費用に入れ忘れていないか
- 月末現預金残高がマイナスになる月がないか
- 前提条件を1枚にまとめ、数字を変えたいときにどこを触ればよいか分かるようになっているか
この7点を通すだけで、質疑で崩れる箇所は大きく減ります。計画書の強さは、文章の巧みさではなく、数字同士のつながりで決まります。
まとめ
事業計画書は、読む相手(金融機関か、投資家か)が何を見たいかから逆算して構成します。基本要素を押さえ、リスクにも触れ、数字は保守的に根拠とともに、そして戦略と数字を一本の線でつなぐ。体裁ではなく、相手が判断できる中身が、計画書の価値です。目的に合った一枚を、一緒に作りましょう。
よくある質問
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