エクイティでの資金調達は、返済不要の資金を得られる強力な手段です。しかし、その対価として渡す「株式」には、融資とは決定的に違う性質があります。一度出した株式は、基本的に戻ってこないということです。資本政策は、やり直しのきかない一発勝負。だからこそ、最初の設計が重要になります。
持株比率が意味するもの
株式は、単なる出資の証ではなく、会社の意思決定に参加する権利です。増資・定款変更・合併など、会社の根幹に関わる決定には株主総会での決議が必要で、可決に必要な比率が決まっています。自分の持株比率が下がるほど、経営の重要事項を自分の意思だけでは決められなくなる。比率の低下は、経営の自由度の低下そのものです。
やりがちな失敗:初期に出しすぎる
資本政策で最も多い失敗は、創業初期に、株式を安く・多く出しすぎることです。初期は会社の評価額が低いため、同じ金額を調達するのに多くの株式を渡すことになります。目先の資金ほしさに比率を崩すと、その後のラウンドでさらに希薄化が進み、気づけば経営権が危うくなっている——という事態が起こります。
ラウンドを分けて、段階的に調達する
対策の基本は、一度に大きく調達せず、事業の成長に合わせて段階的に調達することです。事業が進んで会社の評価額が上がれば、同じ金額でも渡す株式は少なくて済みます。必要な資金を、必要なタイミングで、適正な評価額で。この設計が、希薄化を最小限に抑えます。
株式は、出すのは一瞬、取り戻すのは至難。資本政策に「とりあえず」はない。
将来から逆算して、いま決める
資本政策は、目の前の調達だけを見て決めるものではありません。最終的に自分と経営陣でどれだけの比率を保ちたいか。役職員へのインセンティブにどれだけ使うか。そこから逆算して、今回のラウンドで出せる上限を決める。将来の絵から逆算する設計が、後悔のない資本政策をつくります。
持株比率を、決議の区分で段階に分けて考える
持株比率は、なめらかに続く数字というよりいくつかの段目がある階段として捉えると判断しやすくなります。会社法上、株主総会の決議には大きく普通決議と特別決議があり、可決に要する賛成の水準が異なるためです。普通決議は議決権の過半数、特別決議は出席した株主の議決権の3分の2以上が基本の考え方になります。
- 過半数を保有:役員の選任・解任や計算書類の承認といった、普通決議に属する事項を自らの意思で通せる水準です
- 3分の2以上を保有:定款変更、募集株式の発行、合併や事業譲渡といった特別決議に属する事項まで、自らの意思で決められる水準です
- 3分の1超を保有:単独では決められないものの、特別決議に属する事項を止められる水準です
- 過半数を割る:日常の経営は続けられても、役員構成を含む重要事項が他の株主の同意なしには動かなくなります
「何パーセントまで出せるか」を考えるときは、この段のどこを踏み越えるのかで見ます。1パーセントの違いが意味を持つのは、段の境目にいるときです。なお定足数の扱いや決議事項の区分は定款によっても変わるため、実際の設計では自社の定款を確認してください。
希薄化を、増資の前に式で確かめる
増資は、既存株主の株式を取り上げるのではなく、発行済株式数という分母を増やすことで比率を下げます。式で押さえておけば、条件の提示を受けたその場で影響を計算できます。
増資後の持株比率 = 保有株式数 ÷ 増資後の発行済株式数
放出比率 = 投資額 ÷ 増資後の企業価値評価額
新規発行株式数 = 増資前の発行済株式数 × 放出比率 ÷(1 − 放出比率)
投資額 5,000万円/増資後の評価額 3億円 → 放出比率 = 16.67パーセント
新規発行株式数 = 1,000株 × 0.1667 ÷ 0.8333 = 200株
増資後の創業者比率 = 800株 ÷ 1,200株 = 66.67パーセント
効いてくるのは、これが繰り返されたときです。累積の希薄化は、各ラウンドで残る割合を掛け合わせて計算します。
80パーセント × 0.8333 × 0.80 × 0.80 = 42.7パーセント
1回目で3分の2の段を、3回目で過半数の段を割ります。各回の放出は極端な水準ではありません。1回ごとには小さく見える判断が、掛け算で効いてくるのが希薄化です。ラウンドごとに考えるのではなく、想定する回数まで並べた表を先に作り、そのうえで今回の上限を決めます。
戻せないことを前提にした、設計の順序
株式が戻らないのは、法律上譲り受けられないからではありません。買い戻すには相手の合意と、上がった評価額に見合う資金が要ります。調達したばかりの会社に、その現金はまず残っていません。加えて株主は相続や譲渡で入れ替わることもあり、渡した先が将来も同じ相手とは限りません。設計は、次の順序で進めます。
- 数年後に目指す姿(上場、第三者への譲渡、独立を保ったままの成長)を先に置く
- その姿に至ったとき、自分と経営陣で維持しておきたい比率の下限を決める
- 役職員へのインセンティブに充てる枠を、別枠として先に確保しておく
- 想定するラウンド数で下限までを割り振り、各回の放出上限を逆算する
- 資金使途を積み上げて必要額を出し、その上限の範囲で調達できるかを確かめる
- 収まらない場合は、調達額を削るか、融資との組み合わせに切り替えるかを検討する
なお、議決権を抑えた種類株式や、将来の権利として渡す新株予約権といった手段も選択肢としては存在します。ただし設計と運用は複雑になります。まずは普通株式で比率の絵を描き切り、それでも解けない課題が残ったときに専門家を交えて検討する、という順番が扱いやすいはずです。
まとめ
株式は出しすぎたら戻せない——この一点を押さえるだけでも、資本政策の失敗の多くは避けられます。持株比率の意味を理解し、段階的に調達し、将来から逆算して設計する。調達の前にこそ、設計の価値があります。動き出す前に、一度立ち止まって一緒に考えましょう。
よくある質問
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