「借金は、できるだけしたくない」。堅実な経営者ほど、そう考えます。その慎重さは大切ですが、行きすぎると、必要な投資のチャンスを逃し、かえって成長を止めてしまうことがあります。借入は、それ自体が善でも悪でもありません。使い方次第で、武器にも重荷にもなる道具です。
借入は「時間を買う」道具
自己資金が貯まるのを待って投資すれば、機会を逃すかもしれません。借入を使えば、今、必要な投資を実行できます。いわば、借入は「時間を買う」道具です。買った時間で、借入コスト(利息)を上回るリターンを生めるなら、その借金は会社を前に進めます。無借金にこだわるあまり成長が止まるのは、本末転倒になり得ます。
良い借金とは
良い借金の条件は、その借入が、返済の原資を生み出すことです。
- 設備投資:その設備が生む利益で返済できる
- 成長のための運転資金:売上増に伴う仕入・人件費を賄い、回収して返す
- 金利を上回るリターンが見込める投資
お金がお金を生み、その一部で返済する。これが良い借金の姿です。
悪い借金とは
一方、悪い借金は、返済の原資を生まない借入です。
- 赤字の穴埋めのための借入(返す当てがないまま負担だけ増える)
- 借入の返済のための、新たな借入(自転車操業)
- 身の丈を超えた、返済が重すぎる借入
これらは、問題を先送りしながら負担を積み上げます。同じ「借金」でも、性質はまったく逆です。
返済原資を生む借金は、会社を伸ばす。生まない借金は、負担だけを残す。
「無理なく返せるか」を数字で見る
良い借金にするための鍵は、返済が無理のない水準かを数字で確かめることです。目安は、本業で生まれるキャッシュ(おおむね税引後利益+減価償却費)に対して、年間の返済額が重すぎないか。ここを見ずに「借りられるだけ借りる」と、良い目的の借入でも重荷に変わります。借りる前に、返済のシミュレーションをしておくことが大切です。
良し悪しを分ける2つの式
その借入が良い借金かどうかは、借りる前に2つの式で確かめられます。1つ目は採算、2つ目は期間の対応です。
≧ 年間の元金返済額 + 年間の支払利息
左が右を上回っていれば、その借入は自分で自分を返す構造になっています。下回っていれば、不足分を既存事業の稼ぎから持ち出すことになります。
返済期間7年 → 年間の元金返済額 = 2,000万円 ÷ 7年 ≒ 286万円
400万円 − 286万円 = 114万円(支払利息がこの範囲に収まるかを確認する)
もう1つが、資金使途と返済期間の対応です。
ここがずれると、黒字でも資金は苦しくなります。10年使う設備を5年返済で借りると、費用に計上される減価償却費は年200万円、実際の元金返済は年400万円。差額の200万円は、毎年ほかの利益から捻出することになります(説明用の例です)。設備投資の返済が重くなる原因は、採算そのものより期間のずれにあることが少なくありません。
運転資金と設備資金では、判断の軸が変わる
同じ借入でも、運転資金と設備資金では見るべき点が異なります。
運転資金:必要額を式でつかむ
売ってから入金されるまでの立替に必要な金額で、事業を続ける限り消えず、売上が伸びるほど増えます。売上債権3,000万円 + 棚卸資産1,500万円 − 仕入債務2,000万円 = 2,500万円の会社で売上が2割伸びれば、所要運転資金もおおむね2割増えて3,000万円となり、500万円の追加資金が要る計算です(説明用の例です)。この増加分を借入で賄うのは、成長に伴う自然な資金需要です。
一方、売上が伸びていないのに所要運転資金が増えているなら、回収の遅れか在庫の滞留を疑います。この場合に要るのは借入ではなく、回収条件と在庫の見直しです。同じ「運転資金が足りない」でも、成長によるものと停滞によるものでは打つ手が逆になります。
設備資金:稼働までの助走を織り込む
設備資金は式1と式2で判断します。加えて確認したいのが、設備が利益を生み始めるまでの期間です。導入直後は返済だけが先行し、効果は後から出ます。助走期間の資金を資金繰り表で手当てできているか。ここを見落とすと、採算は合っていても途中で資金が苦しくなります。
借りすぎの見方と、無借金経営をどう考えるか
借入全体が重すぎないかを見る代表的な指標が、債務償還年数です。
手元資金を考慮する場合 =(有利子負債 − 現預金)÷(税引後利益 + 減価償却費)
いまの利益水準が続いた場合に、借入を返しきるまでの年数です。有利子負債1億2,000万円、税引後利益600万円 + 減価償却費900万円 = 1,500万円であれば、1億2,000万円 ÷ 1,500万円 = 8年。現預金2,000万円を差し引くと、1億円 ÷ 1,500万円 = 約6.7年となります(説明用の例です)。
この年数は、短いほど返済能力に余裕があると見られる傾向があります。ただし妥当な水準は業種・資産構成・投資サイクルによって変わるため、一律の基準として当てはめるより、自社の推移を追うほうが実務的です。年々伸びているなら、利益が借入の増加に追いついていないというサインになります。
無借金経営の是非
- 利点:返済負担がなく資金繰りが安定し、売上の落ち込みや外部環境の変動に耐える力が強い
- 留意点:投資のタイミングが自己資金の蓄積に縛られ、取引実績が薄いといざ資金が要るときに動きにくい
必要な投資を自己資金で賄えているなら、無借金は合理的な選択です。一方で、投資の機会を逃し続けているなら見直す余地があります。分かれ目は、借入があるかどうかではなく、手元資金が事業の変動に耐えられる厚みを持っているかです。備えとして借入で手元資金を厚くしておく選択も、経営判断として成り立ちます。
まとめ
借入は、善でも悪でもなく、使い方次第の道具です。返済原資を生む「良い借金」は成長の武器になり、赤字を埋める「悪い借金」は負担を残します。大切なのは、無理なく返せる水準かを数字で見極めること。借金を恐れすぎず、しかし賢く使う。自社に合った借入水準、一緒に見極めませんか。
よくある質問
自社に合った借入水準を、一緒に見極めませんか。
いくらまでなら無理なく返せるか、数字で確かめられます。
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