決算書を見るとき、多くの経営者はまず損益計算書を開きます。売れたか、儲かったか。関心が向くのは自然なことです。一方で、金融機関や投資家、買い手が時間をかけて見ているのは、その裏側にある貸借対照表です。
貸借対照表が語るのは、この会社は、悪いことが起きたときにどれだけ持ちこたえられるかということです。この記事では、その耐久力を測る4つの指標を、計算式と数値例で追いかけます。あわせて、指標を実態に引き直して見る手順まで扱います。
「安全性」とは、何が安全なのか
財務の安全性という言葉は抽象的ですが、実際に見ているのは3つのことです。
- 損失を吸収できるか:赤字が出たとき、どこまで自前の資本で受け止められるか
- 短期の支払いに耐えられるか:1年以内に返す・払うものに対して、1年以内に現金化できるものが足りているか
- 長い投資を、長いお金で賄えているか:回収に何年もかかる資産を、短期の借入で持っていないか
この3つに対応するのが、自己資本比率、流動比率と当座比率、固定長期適合率です。順に見ていきます。
自己資本比率:ショックをどれだけ吸収できるか
いちばん基本になる指標です。総資産のうち、返済義務のない自前の資本がどれだけあるかを示します。
純資産は、資本金と過去の利益の蓄積が中心です。ここが厚いほど、赤字が出ても債務超過に至るまでの距離があります。逆に薄いと、一度の大きな損失で純資産が吹き飛びます。
水準の良し悪しは、業種と事業モデルで大きく変わります。設備を多く持つ事業と、資産をほとんど持たない事業では前提が違うため、ひとつの数字だけで判断せず、自社の過去数期の推移で方向性を見るのが実務的です。上がっているのか、下がっているのか。下がっているなら、その理由はどこにあるのか。
流動比率と当座比率:1年以内の支払いに耐えられるか
次は、短期の支払能力です。1年以内に現金化できる資産と、1年以内に支払う負債を比べます。
当座資産 = 現預金 + 売上債権 + 有価証券
当座比率 = 当座資産 ÷ 流動負債 × 100
流動比率は、流動資産をまるごと分子に置きます。ただし流動資産には棚卸資産が含まれ、在庫は売れて回収されるまで現金になりません。そこで、現金化の速いものだけに絞ったのが当座比率です。
この2つはセットで見ます。差が大きい会社は、支払能力の多くを在庫に依存しているということです。在庫が計画どおり売れる前提が崩れれば、その支払能力は絵に描いた餅になります。
固定長期適合率:長い投資を、長いお金で賄えているか
3つ目は、資産と資金調達の期間が噛み合っているかを見る指標です。
固定資産は、工場、機械、店舗、システムなど、長い時間をかけて回収する資産です。これを賄うべき資金は、返済を迫られない自己資本か、長期の借入であるべきだという考え方に立ちます。
この比率が100パーセントを超えていると、固定資産の一部を短期の資金で持っていることになります。短期借入は期日ごとに更新が必要で、更新できなければその瞬間に資金が詰まります。回収に10年かかる資産を、1年ごとの借入で支えている状態は、それ自体がリスクです。
資産の寿命と、お金の寿命を揃える。この一致が崩れているとき、損益が黒字でも資金繰りは不安定になります。
数値例:1社の貸借対照表を、4つの指標で読む
仮の会社で計算します(説明用の例です)。貸借対照表は次のとおりとします。
- 総資産 500,000,000円(流動資産 260,000,000円/固定資産 240,000,000円)
- 流動資産の内訳は、現預金 60,000,000円/売上債権 110,000,000円/棚卸資産 90,000,000円
- 流動負債 200,000,000円/固定負債 200,000,000円/純資産 100,000,000円
まず、貸借が合っていることを確認します。資産は260,000,000円 + 240,000,000円 = 500,000,000円。負債・純資産は200,000,000円 + 200,000,000円 + 100,000,000円 = 500,000,000円。一致しています。
流動比率 = 260,000,000円 ÷ 200,000,000円 × 100 = 130.0パーセント
当座資産 = 60,000,000円 + 110,000,000円 = 170,000,000円
当座比率 = 170,000,000円 ÷ 200,000,000円 × 100 = 85.0パーセント
固定長期適合率 = 240,000,000円 ÷(100,000,000円 + 200,000,000円)× 100 = 80.0パーセント
読み取れることを整理します。固定長期適合率は100パーセントを下回っており、固定資産は自己資本と固定負債の範囲で賄えています。ここは問題ありません。
一方、流動比率は130.0パーセントですが、当座比率は85.0パーセントまで落ちます。差の45.0ポイントは棚卸資産90,000,000円の存在です。1年以内の支払いを、在庫が売れることを前提に組み立てている状態だと分かります。まず確認すべきは、その在庫が実際に動いているかどうかです。
指標は、実態に引き直してから見る
ここまでは、決算書の数字をそのまま使いました。しかし実務では、もう一段の作業が要ります。資産が本当にその金額の価値を持っているかを確かめる作業です。
金融機関が決算書を見るとき、内部でこの引き直しをしています。よく対象になるのは次の項目です。
- 回収の見込みが立たない売上債権:長期間動いていない売掛金、先方の状況が悪化している債権
- 売れる見込みのない棚卸資産:滞留在庫、陳腐化した商品、実地棚卸で確認できないもの
- 回収予定のない貸付金や仮払金:役員や関係会社への資金の流出が科目上残っているもの
- 収益を生んでいない固定資産:使用していない設備、時価が大きく下がっている資産
先の会社で、回収の見込みがない売上債権が30,000,000円、売れる見込みのない在庫が20,000,000円あったとします(説明用の例です)。
実質純資産 = 100,000,000円 − 50,000,000円 = 50,000,000円
実質総資産 = 500,000,000円 − 50,000,000円 = 450,000,000円
実質自己資本比率 = 50,000,000円 ÷ 450,000,000円 × 100 = 約11.1パーセント
実質流動資産 = 260,000,000円 − 50,000,000円 = 210,000,000円
実質流動比率 = 210,000,000円 ÷ 200,000,000円 × 100 = 105.0パーセント
自己資本比率は20.0パーセントから約11.1パーセントへ、流動比率は130.0パーセントから105.0パーセントへ。同じ会社が、まったく違う姿に見えます。そして、外部が見ているのは後者のほうです。
自社で先にこの引き直しをしておくことには、2つの意味があります。相手が見ている景色を、自分でも把握できること。そして、引き直しの対象になった項目こそが、真っ先に手をつけるべき場所だと分かることです。
指標は症状、原因は貸借対照表の中身にある
比率が悪いとき、比率そのものを操作しようとしても意味がありません。指標は症状であって、原因は個別の項目のなかにあります。
- 自己資本比率が低い:利益の蓄積が薄いか、資産が膨らんでいるか。利益を出す、あるいは不要な資産を落として総資産を圧縮する
- 当座比率が低い:在庫に資金が寝ているか、回収が遅い。在庫の持ち方と回収条件を見直す
- 固定長期適合率が高い:長期の資産を短期の資金で持っている。借入の期間を組み替える
- 指標は横ばいなのに資金が苦しい:損益と現金の動きがずれている。資金繰り表で月次の動きを追う
どの打ち手も、効果が出るまでには時間がかかります。比率が悪化してから動くのではなく、推移を毎期追って、傾きが変わった時点で手を打つ。それが指標を使う本来の目的です。
自社で確認する手順
- 直近3期分の貸借対照表を並べ、総資産・純資産・流動資産・流動負債・固定資産・固定負債を書き出す
- 各期について、自己資本比率・流動比率・当座比率・固定長期適合率を計算する
- 3期の推移を見て、改善しているか悪化しているかを確認する
- 流動比率と当座比率の差を見て、在庫への依存度を測る
- 回収見込みのない債権、動いていない在庫、回収予定のない貸付金、収益を生まない固定資産を洗い出す
- それらを差し引いた実態ベースで、自己資本比率と流動比率を計算し直す
- 差が大きかった項目を、今期の打ち手の対象として一覧にする
まとめ
損益計算書は1年間の成績を語りますが、その会社が持ちこたえられるかどうかを語るのは貸借対照表です。自己資本比率で損失の吸収力を、流動比率と当座比率で短期の支払能力を、固定長期適合率で資産と資金の期間の一致を見る。この4つで、貸借対照表の骨格はおおむね掴めます。
大切なのは、水準の暗記ではありません。自社の推移を追うこと、実態に引き直して見ること、そして悪化の原因を個別の項目まで下ろすこと。ここまでやって初めて、指標は打ち手につながります。
よくある質問
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安全性指標の算定から、資産の実在性の確認、改善の優先順位づけまで。
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