「利益は出ているのに、通帳が増えない」。経営の相談で、もっとも多く聞く言葉のひとつです。原因はたいてい難しいところにはありません。仕入で出ていった現金が、売上として戻ってくるまでに時間がかかっている——それだけのことが多いのです。その時間を日数で測る指標が、CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)です。
利益と現金がずれる理由
損益計算書の利益は、売上を計上した時点と費用が発生した時点で計算されます。一方で現金は、入金と出金が起きた時点で動きます。このタイミングのずれが、利益と現金の差になります。
商品を仕入れ、在庫として持ち、販売し、代金を回収する。この一連の流れの中で、支払は先に、入金は後に来るのが一般的です。売上が伸びれば伸びるほど、先に出ていく現金も増えます。成長している会社ほど資金が苦しくなるのは、このためです。
金額で見るのが所要運転資金の考え方だとすれば、同じ現象を時間で見るのがCCCです。金額は事業規模に左右されますが、日数なら規模が変わっても体質を比べられます。
3つの回転日数で、時間を分解する
CCCは、3つの回転日数を組み合わせて出します。それぞれ「何日分の残高を持っているか」を表しています。
棚卸資産回転日数 = 棚卸資産 ÷ 売上原価 × 365
仕入債務回転日数 = 仕入債務 ÷ 売上原価 × 365
売上債権には受取手形と売掛金を、仕入債務には支払手形と買掛金を入れます。棚卸資産と仕入債務を売上原価で割るのは、どちらも原価の世界の数字だからです。分母を売上高に揃えてしまうと、粗利率の変化が日数に紛れ込みます。
なお、365日で割るか営業日数で割るかは、社内で基準を固定しておけば構いません。大切なのは、期を跨いで同じ基準で比べられることです。
CCCの式と、その意味
読み方はシンプルです。売った代金が入るまで何日かかり、在庫を何日抱え、仕入代金の支払をどれだけ待ってもらえているか。前の2つが現金の拘束期間、最後のひとつが現金の猶予期間です。差し引きで残った日数が、自社が自前の資金で立て替えている期間になります。
CCCがプラスなら、その日数分の運転資金を自前で用意する必要があります。マイナスであれば、代金を回収してから支払う流れができており、事業の成長がそのまま現金を生みます。
数値例:CCCを実際に出してみる
仮の会社で計算します(説明用の例です)。年商6億円、売上原価4億2,000万円、期末の売上債権9,000万円、棚卸資産7,000万円、仕入債務6,000万円とします。
棚卸資産回転日数 = 70,000,000円 ÷ 420,000,000円 × 365 = 約60.8日
仕入債務回転日数 = 60,000,000円 ÷ 420,000,000円 × 365 = 約52.1日
CCC = 54.8日 + 60.8日 − 52.1日 = 約63.4日
この会社は、仕入のために現金を出してから回収し終わるまで、およそ63日を自前の資金でつないでいることになります。この63日分を賄うお金が、いわゆる運転資金です。
= 90,000,000円 + 70,000,000円 − 60,000,000円 = 100,000,000円
日数で63.4日、金額で1億円。同じ状態を、時間と金額の2つの物差しで見ていると考えてください。日数は体質を、金額は必要額を示します。
1日縮めると、いくら効くのか
改善の議論をするときは、日数の変化を金額に換算すると話が具体になります。売上債権は日商(1日あたり売上高)、棚卸資産と仕入債務は1日あたり売上原価で換算します。
1日あたり売上原価 = 420,000,000円 ÷ 365 = 約1,150,685円
回収を5日早めた場合 = 1,643,836円 × 5日 = 約822万円の資金が浮く
在庫を5日分減らした場合 = 1,150,685円 × 5日 = 約575万円の資金が浮く
合計 = 約1,397万円、CCCは63.4日から53.4日へ
10日の短縮で、およそ1,400万円の現金が事業の中から出てきます。これは借入ではないので、利息もつかず、返済も要りません。調達を考える前に、まず自社の中に眠っている資金を探す——CCCを見る目的は、ここにあります。
資金が足りないとき、選択肢は「借りる」だけではありません。回収・在庫・支払の3つの日数は、いずれも経営の意思で動かせる余地があります。
短縮の打ち手を、3つの要素に分けて考える
売上債権:回収を早める
- 請求のタイミングが遅れていないか(検収待ち・締め処理待ちで数日失っていないか)
- 取引先ごとに回収条件がばらついていないか。条件の見直しは、新規取引や契約更新のタイミングが切り出しやすい
- 期日を過ぎた債権が滞留していないか。相手先別・年齢別に一覧化する
棚卸資産:滞留を減らす
- 品目別に回転日数を出し、動きの遅いものを特定する。全体平均では動かせない
- 安く仕入れるためのまとめ買いが、資金の拘束と釣り合っているかを金額で確認する
- 受注から納品までのリードタイムを短くできれば、持つべき在庫も減る
仕入債務:支払を適正化する
- 他社より不利な支払条件になっていないか、取引条件を棚卸しする
- ただし、支払を遅らせるのは相手の資金繰りを圧迫する行為でもあります。関係を損なわない範囲にとどめる
3つのうち、もっとも動かしやすいのは在庫、次が回収条件です。支払条件の変更は相手のあることなので、最後に検討するのが順当です。
自社のCCCを出す手順
- 直近3期分の決算書から、売上高・売上原価・売上債権・棚卸資産・仕入債務を抜き出す
- 3つの回転日数を、それぞれ同じ基準(365日など)で計算する
- CCCを出し、3期分を横に並べる
- 伸びている要素を特定する。CCC全体ではなく、どの構成要素が悪化したかまで落とす
- その要素について、取引先別・品目別に分解し、上位から手を打つ
他社との比較よりも、まずは自社の推移で見ることをおすすめします。適正な水準は業種や商流で大きく異なり、外の数字に合わせにいっても打ち手にはつながりません。去年の自社より1日でも短くなっているか——この問いのほうが、実務では役に立ちます。
短ければ良い、とは限らない
最後に、注意点をひとつ。CCCは資金繰りの指標であって、事業の良し悪しを測る指標ではありません。在庫を削りすぎて欠品が起きれば売上を失いますし、支払を遅らせすぎれば仕入先との関係が傷みます。
短縮は、売上と取引関係を損なわない範囲で行うものです。日数を追いかけるあまり事業が痩せてしまっては、本末転倒になります。CCCは、資金繰りの改善余地がどこにあるかを教えてくれる地図として使うのが適切です。
まとめ
CCCは、現金が事業の中で拘束されている期間を日数で表した指標です。売上債権と棚卸資産の回転日数を足し、仕入債務の回転日数を引く。それだけの計算で、資金繰りの体質が見えるようになります。
そして日数は、金額に換算できます。1日の短縮がいくらの現金を生むかが分かれば、改善の議論は「頑張る」から「どこを、いつまでに、何日縮めるか」に変わります。まずは直近3期分のCCCを並べるところから始めてみませんか。
よくある質問
自社の現金が、どこで止まっているか見てみませんか。
回転日数の分解から、資金繰り表への反映まで。
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