「受注は過去最高。人も増やした。なのに、通帳の残高は去年より少ない」。成長している会社ほど、この違和感にぶつかります。数字が悪いわけではありません。むしろ、伸びているからこそ起きる現象です。
これは経営の失敗ではなく、成長には現金が先に出ていくという構造から生まれています。構造である以上、あらかじめ金額として計算できます。この記事では、増収に伴って必要になる資金を先に読み、成長の速度と資金の手当てを噛み合わせる手順を扱います。
売れているのに、現金が減る
売上が増えると、会社の中では次のことが同時に起きます。仕入や外注が増える。人を採る。在庫を厚くする。そして、売った代金は回収サイトの分だけ後から入ってきます。
つまり、出ていくのが先、入ってくるのが後という順番が、売上の伸びに比例して大きくなっていきます。損益計算書の上では利益が出ていても、その利益は売上債権や在庫という形に姿を変えていて、まだ現金にはなっていません。
この状態が続くと、黒字のまま資金が細っていきます。売上が横ばいの会社では起きにくく、伸びている会社にだけ起きる。だから「壁」と呼ばれます。
運転資金は、売上に比例して増える
まず、いまの事業が現金をどれだけ抱え込んでいるかを測ります。使うのは所要運転資金です。
売上債権と棚卸資産は、現金が寝ている場所です。仕入債務は、支払いを待ってもらっている分だけ現金が助かっている場所です。差し引きが、事業を回すために常時必要な資金になります。
次に、これを日数に直します。金額のままだと売上規模が変わったときに比較できませんが、日数にすれば規模から切り離せます。
運転資金回転期間(日) = 所要運転資金 ÷ 1日あたり売上
この回転期間が、成長時の資金需要を決める係数になります。回転期間が長い事業ほど、同じ増収でも多くの資金を必要とします。
増加運転資金を、先に計算する
回転期間が分かれば、増収に必要な資金はそのまま計算できます。
仮の会社で確かめます(説明用の例です)。年間売上730,000,000円、売上債権146,000,000円、棚卸資産60,000,000円、仕入債務86,000,000円とします。
所要運転資金 = 146,000,000円 + 60,000,000円 − 86,000,000円 = 120,000,000円
運転資金回転期間 = 120,000,000円 ÷ 2,000,000円 = 60日
この会社が、来期に売上を30パーセント伸ばす計画を立てたとします。
売上増加額 = 949,000,000円 − 730,000,000円 = 219,000,000円
増加運転資金 = 219,000,000円 × 60日 ÷ 365 = 36,000,000円
検算として、来期の所要運転資金を直接出しても同じになります。来期の1日あたり売上は949,000,000円 ÷ 365 = 2,600,000円、回転期間が60日のままなら所要運転資金は2,600,000円 × 60日 = 156,000,000円。現状の120,000,000円との差は36,000,000円で一致します。
つまりこの会社は、売上を30パーセント伸ばすために、36,000,000円の現金を先に用意しなければならないということです。計画書のどこにも書かれていない金額ですが、実際には現金として必要になります。
利益で賄える成長には、上限がある
では、その36,000,000円はどこから出るのか。まず考えるのは、自社が稼いだ利益です。
先の会社の税引後利益率を3パーセントと置くと、来期の税引後利益は次のようになります(説明用の例です)。
増加運転資金 = 36,000,000円
差額 = 36,000,000円 − 28,470,000円 = 7,530,000円の不足
利益は出ているのに、成長に必要な資金には7,530,000円届いていません。これが、黒字のまま資金が苦しくなる仕組みです。
逆算すれば、利益だけで賄える増収額も出せます。
= 28,470,000円 × 365 ÷ 60日 = 173,192,500円
現状売上に対する比率 = 173,192,500円 ÷ 730,000,000円 = 約23.7パーセント
なお、この計算は利益がそのまま現金として手元に残る前提で単純化しています。実際には借入の返済や設備投資にも現金が要るため、運転資金に回せる金額はこれより小さくなります。
この会社が外部資金に頼らず伸ばせるのは、年23.7パーセント程度まで。計画している30パーセントは、その線を超えています。超えること自体が悪いのではなく、超えるなら資金の手当てを計画に含めておく必要があるということです。
成長の速度は、意欲ではなく資金の制約で決まります。だからこそ、速度を落とすのか、資金を用意するのかを、先に選べます。
壁は、運転資金だけではない
増加運転資金は計算しやすい部分ですが、成長局面ではほかにも現金が先行します。計画に織り込む項目を挙げます。
- 人員の先行採用:採用してから戦力になるまでの期間、人件費だけが先に出ていきます
- 設備・拠点の投資:支出は一度に、回収は長期にわたります
- 仕組みへの投資:システム、管理体制、教育。売上に直結しにくい分、後回しにされがちです
- 取引条件の悪化:新規の大口先ほど回収サイトが長いことがあり、回転期間そのものが延びます
- 与信の広がり:取引先が増えるほど、回収できない売掛金が生じる確率も上がります
これらを足し合わせたものが、その年に必要な現金の総額です。増加運転資金だけを見て安心すると、後から不足が出ます。
壁を越える3つの方向
必要額が出たら、打ち手は3方向で考えます。
- 回転期間を短くする:必要額そのものを減らす方向です。請求の締めから入金までを詰める、在庫の持ち方を見直す、支払条件を交渉する
- 資金を用意する:不足額と時期が分かっていれば、借入の設計もしやすくなります。成長のための資金であることを、数字で説明できる状態にしておきます
- 速度を選ぶ:資金の裏づけがない成長は、途中で止まります。伸ばす順番を決め、いちばん資金効率のよい領域から取りにいく
回転期間を短くする効果は、そのまま金額になります。先の会社が売上債権の回転を10日短縮できたとすると、来期の1日あたり売上2,600,000円に対して次のとおりです。
来期の所要運転資金 = 2,600,000円 × 50日 = 130,000,000円
増加運転資金 = 130,000,000円 − 120,000,000円 = 10,000,000円
36,000,000円だった資金需要が、10,000,000円まで下がります。回収を10日早めることは、26,000,000円を調達することと同じ効果を持つということです。借りる前に、まずここを見ます。
金融機関には、成長の資金として説明する
成長局面の資金相談は、伝え方で受け止められ方が変わります。「資金が足りない」ではなく、「この売上計画を実行すると、この時期にこれだけの運転資金が要る」という説明にします。前者は資金繰りの悪化に見え、後者は事業の設計に見えます。
用意する資料は次のようなものです。
- 過去3期分の売上と、売上債権・棚卸資産・仕入債務の推移
- そこから計算した運転資金回転期間の推移(延びているか、縮んでいるか)
- 今期・来期の売上計画と、その根拠となる受注や引き合いの状況
- 売上計画から計算した増加運転資金の金額と、必要になる時期
- 先行する採用・設備投資の内容と支出時期
- 手元現預金と既存借入を踏まえた、不足額
- 回転期間の短縮など、自社で講じている手
回転期間の推移を自分から出せる会社は多くありません。資金需要の理由を自社で説明できることが、そのまま管理体制の証明になります。
自社で確認する手順
- 直近の決算書から、売上債権・棚卸資産・仕入債務を拾う
- 所要運転資金を計算し、1日あたり売上で割って回転期間を出す
- 過去3期分で同じ計算をし、回転期間が延びていないかを確認する
- 来期の売上計画から、売上増加額を確定する
- 増加運転資金を計算する
- 先行する採用・設備投資の支出を足し、必要資金の総額を出す
- 来期の税引後利益見込みと比べ、不足額と発生時期を確定する
- 回転期間の短縮余地を洗い出し、それでも残る不足額を調達の対象にする
まとめ
成長企業の資金繰りが苦しくなるのは、経営が悪いからではありません。売上が増えれば運転資金も増えるという、事業の構造がそうさせています。
所要運転資金を日数に直し、売上増加額を掛ければ、必要な資金は先に金額として出ます。それを税引後利益と比べれば、自己資金で伸ばせる速度も見えます。数字が先に出ていれば、速度を選ぶことも、資金を用意することもできます。
壁にぶつかってから動くと、選べる手はほとんど残っていません。伸びていると分かった時点で計算しておくこと。それが、成長を止めないための実務です。
よくある質問
成長に必要な資金を、先に出しませんか。
運転資金回転期間の算定から、売上計画に紐づく増加運転資金の見積もり、調達の設計まで。
初回相談は無料です。直近の決算書をもとにご一緒に確認します。
まずは情報収集から、という方は 会社紹介資料をダウンロード(無料)