どれだけ売上を伸ばしても、代金を回収できなければ、その売上は幻です。それどころか、仕入や人件費は先に払っているため、焦げ付いた売掛金は、利益どころか現金を直接失わせます。売上の管理と同じくらい、「回収できる相手に売っているか」の管理——与信管理が重要です。
売掛金は「貸しているお金」
掛け取引は、商品やサービスを先に渡し、代金を後で受け取る取引です。つまり売掛金とは、取引先にお金を貸しているのと同じこと。銀行が融資の前に審査をするように、掛けで売る側も、相手の支払い能力を見極める必要があります。「昔からの付き合いだから」だけで大きな与信を与えるのは、無担保で大金を貸すのと変わりません。
与信管理の基本の仕組み
難しく考える必要はありません。基本は次の3つです。
- 取引前に調べる:新規取引先の業歴・評判・決算情報を確認する
- 上限を決める:取引先ごとに「ここまでなら掛けで売ってよい」という与信限度額を設定する
- 回収を監視する:入金予定と実績を突き合わせ、遅れを早期に発見する
特に大切なのが上限の設定です。一社に売上が集中するほど、その一社の焦げ付きが致命傷になります。
危険な兆候を、早くつかむ
取引先の経営悪化には、たいてい前兆があります。支払いが遅れがちになる。分割払いや期日延長の相談が来る。発注量が不自然に増える、または急減する。担当者の退職が続く。「いつもと違う」という小さな変化こそが、最も重要なシグナルです。兆候を感じたら、取引条件の見直しや回収の前倒しなど、静かに手を打ち始めます。
売上は、回収して初めて売上になる。売る力と、回収する力は、両輪だ。
焦げ付きそうなときの動き方
実際に入金が遅れたら、スピードが命です。すぐに連絡し、状況と支払い予定を確認する。曖昧な返事のまま次の出荷を続けない。対応が早いほど、回収できる可能性は高くなります。逆に、気まずさから連絡を先延ばしにすると、他の債権者に先を越され、回収の順番は後ろに回ります。
与信限度額を、3つの上限の最小値で決める
与信限度額は「この相手にいくらまで貸してよいか」の上限です。決め方は、性格の違う3つの上限をそれぞれ出し、その最小値を採るのが基本形になります。
- 必要額:取引条件上、必然的に残ってしまう売掛残高。月間の取引予定額 ×(回収サイトの月数 + 締めから入金までの猶予月数)で出す
- 相手の支払能力から見た上限:決算内容、他社への支払い状況、事業規模から見て、無理なく払い切れる額
- 自社の体力から見た上限:その一社が全額焦げ付いても、事業を続けられる額
抜けやすいのが3つ目です。焦げ付きの重さは、失った現金を売上で埋め戻すのに何円必要かに直すと実感できます。
500万円 ÷ 20パーセント = 2,500万円
500万円の焦げ付きは、粗利率20パーセントの会社にとって、2,500万円の売上をもう一度立て直すのと同じ重さです。限度額を決めたら、誰がどこまで承認できるかといつ見直すかまで文書にし、見直し時期は相手の決算書を入手できる時期と紐づけておきます。
売掛金の年齢表を作り、毎月同じ形で見る
売掛金は、残高の合計を見ているだけでは危険が見えません。支払期日からどれだけ過ぎているかで分解した表、いわゆる年齢表を作ります。
- 取引先の残高合計ではなく、請求の明細単位で一覧を作る(1社の中で古い債権が新しい売上に紛れるのを防ぐため)
- 各明細に、支払期日と未回収残高を持たせる
- 入金は、原則として古い請求から消し込むルールにする
- 期日内/1日から30日超過/31日から60日超過/61日から90日超過/91日以上、の区分に振り分ける
- 行に取引先、列に超過区分を置いた表にし、毎月まったく同じ形で残す
640万円 ÷ 8,000万円 = 8パーセント
見るべきは水準そのものより、推移と、区分の移動です。同じ8パーセントでも、先月まで3パーセントだったのか、中身が30日超過の枠から60日超過の枠へ移っているのかで、意味はまったく違います。区分が右へずれ始めたら、金額が小さくても先に手を打つ。ここが年齢表の一番の使いどころです。
遅延時のエスカレーションと、回収サイトの重さ
入金遅延への対応が遅れる最大の理由は、担当者が「いつ、誰に上げてよいか」を知らないことです。気まずさを判断から外すために、段階と行動を先に決めておきます。
- 入金予定日 当日:消込で未入金を検出する。担当者が事実確認をし、事務処理の遅れなのか資金繰りなのかを切り分ける
- 数営業日:担当者から書面で連絡し、支払予定日を文書で受け取る。口頭の約束で終わらせない
- 約束した日を再度超過:責任者へ引き上げる。次の出荷を止めるかを判断し、取引条件を前金・現金に切り替える
- 長期化した場合:経営者同士の話し合いに移す。相殺できる債務、担保、保証の有無を確認し、社外の専門家に相談する
日数の刻みは自社の商流に合わせて決めます(上記は説明用の例です)。大事なのは、次の出荷を止める判断が、どの段階の誰の権限かを先に書いておくことです。
信用状態を見る材料は、自社の中にもある
決算書だけが材料ではありません。むしろ自社に溜まっている情報のほうが早く動きます。入金日のブレ幅、支払方法や支払サイトの変更申し出、注文の急増と急減、値引き要求の強まり、経理責任者や担当者の交代、登記事項の変更、そして現場が感じた「いつもと違う」。これらを取引先ごとのメモに時系列で残すだけで、兆候の見え方は変わります。
回収サイトが延びると、いくら現金が減るか
増える売掛金 = 1日あたり売上高 × 延長日数
回収サイトが60日から75日へ:200万円 × 15日 = 3,000万円 が追加で寝る
「15日だけ待ってほしい」という依頼は、この会社にとって3,000万円を無利息で貸す判断と同じです。与信とは、金額の上限と時間の長さの掛け算にほかなりません。サイトの延長要請をその場で金額に換算する習慣が、値決めと同じ重さの判断へ引き上げてくれます。
まとめ
与信管理は、売上にブレーキをかけるためのものではなく、会社の現金を守るための仕組みです。取引前に調べ、上限を決め、回収を監視し、兆候に早く動く。この基本が回っていれば、焦げ付きの大半は防げます。自社の売掛金の全体像、一度点検してみませんか。
よくある質問
自社の与信管理の仕組みを、一緒に整えませんか。
焦げ付きが起きてからでは遅い領域です。
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