「決算では利益が出ているのに、毎年この時期になると通帳が薄くなる」。季節性のある事業では、よく聞く話です。年末に売上が集中する会社、夏に動く会社、年度末に納品が寄る会社。業種が違っても、起きていることは同じです。
これは経営が下手だから起きているのではありません。損益と現金は、動くタイミングが違うという構造から生まれます。であれば、構造として先に把握しておけば、慌てずに済みます。この記事では、季節の形を数字にして、必要なピーク資金を計算する手順を扱います。
年間で黒字でも、月次では詰まる
損益計算書は、売上も費用も「発生した時点」で計上します。一方、現金が動くのは入金日と支払日です。この2つがずれるほど、利益と現金は乖離します。
季節性のある事業では、このずれが特定の時期に集中します。繁忙期に向けて仕入を増やし、人員を手当てし、広告を打つ。この支払いは繁忙期の前に発生します。ところが、繁忙期に稼いだ売上の入金は、回収サイトの分だけ後にずれ込みます。
結果として、いちばん売れている月に、いちばん現金が薄いという状態が生まれます。年間を通せば黒字で、しかも十分な利益が出ている会社でも、この谷を通ることになります。
まず、季節の形を数字にする
感覚で「冬が忙しい」と言っているうちは、資金の手当てまで落ちません。最初にやることは、季節の形を数字に置き換えることです。もっとも簡単な方法が季節指数です。
季節指数 = その月の売上 ÷ 月平均売上
指数が1.0なら平均的な月、1.0を超えていれば繁忙、下回っていれば閑散です。仮の会社で計算します(説明用の例です)。年間売上が360,000,000円だとします。
12月の売上が54,000,000円 → 季節指数 = 54,000,000円 ÷ 30,000,000円 = 1.8
2月の売上が15,000,000円 → 季節指数 = 15,000,000円 ÷ 30,000,000円 = 0.5
繁忙期と閑散期で、売上に3.6倍の開きがあることが分かります。過去3期分で同じ計算をして、毎年同じ形になっているかを確認します。3期とも同じ形なら、それは事業の構造です。今期も同じことが起きると考えて、先に手を打てます。
入金と出金は、同じ月には動かない
季節の形が見えたら、次はそれを現金の動きに翻訳します。ここで効いてくるのが、入金と支払のサイトです。
- 売上の入金:締め日と支払日によって、売上が立った月の翌月、翌々月に入ってきます
- 仕入の支払:仕入先の条件によりますが、入金より早いことが多く、その差が資金を必要にします
- 人件費・固定費:売上に関係なく、毎月ほぼ一定額が出ていきます
- 賞与や大口の支払:特定の月にまとまって出ていきます
売上の山と、現金の山は、サイトの分だけ後ろにずれます。一方で、仕入の支払は売上の山より前に来ます。この前後のずれが重なる時期が、資金繰りのいちばん厳しい局面になります。
月次の資金過不足を、累積で見る
必要な資金の額を出すには、月ごとの過不足を積み上げていきます。
累積資金過不足 = 前月までの累積 + 当月の資金過不足
必要ピーク資金 = 累積資金過不足が最も低くなった時点の不足額
ポイントは、単月ではなく累積で見ることです。単月の不足額だけを見ていると、不足が何か月も続いた場合の合計を見落とします。実際に手元から出ていくのは、その合計だからです。
数値例:累積の谷が、必要資金を教えてくれる
先ほどの会社で、10月から2月までの5か月を計算します(説明用の例です)。前提は次のとおりとします。
- 売上は、8月24,000,000円/9月24,000,000円/10月30,000,000円/11月45,000,000円/12月54,000,000円/1月20,000,000円
- 売上代金は、売上が立った月の2か月後に全額入金される
- 仕入は売上の60パーセントで、支払は翌月
- 固定費は毎月10,000,000円
- 仕入は売上と同じ月に発生するものとし、繁忙期に向けた在庫の先行手当ては、ここでは考慮していません
11月 = 9月売上 24,000,000円
12月 = 10月売上 30,000,000円
1月 = 11月売上 45,000,000円
2月 = 12月売上 54,000,000円
11月 = 30,000,000円 × 60パーセント + 10,000,000円 = 28,000,000円
12月 = 45,000,000円 × 60パーセント + 10,000,000円 = 37,000,000円
1月 = 54,000,000円 × 60パーセント + 10,000,000円 = 42,400,000円
2月 = 20,000,000円 × 60パーセント + 10,000,000円 = 22,000,000円
これを月次の過不足に直し、累積していきます。
11月 = 24,000,000円 − 28,000,000円 = マイナス4,000,000円 / 累積 マイナス4,400,000円
12月 = 30,000,000円 − 37,000,000円 = マイナス7,000,000円 / 累積 マイナス11,400,000円
1月 = 45,000,000円 − 42,400,000円 = プラス2,600,000円 / 累積 マイナス8,800,000円
2月 = 54,000,000円 − 22,000,000円 = プラス32,000,000円 / 累積 プラス23,200,000円
累積がいちばん深くなるのは12月末で、マイナス11,400,000円。これが、この5か月を乗り切るために必要な資金です。売上のピークは12月なのに、現金のピークは2月に来ていることも読み取れます。
手元の現預金が8,000,000円しかなければ、次のようになります。
この5か月を通算すれば、入金177,000,000円に対して出金153,800,000円で、23,200,000円のプラスです。期間全体では余っているのに、途中で3,400,000円が足りない。これが季節変動の資金繰りの本質です。
資金ショートは、儲かっていないから起きるとは限りません。もっとも売れる時期の直前にこそ、起きることがあります。
谷を埋める3つの方向
必要な資金の額と時期が分かったら、打ち手を考えます。方向は大きく3つあります。
- 谷を浅くする:仕入の時期を分散する、支払条件を見直す、回収サイトの短縮を交渉する、閑散期の固定費を抑える。資金の必要額そのものを減らす方向です
- 谷を埋める資金を用意する:季節資金として借入を組む、当座貸越の枠を用意しておく。必要な時期と金額が分かっていれば、設計もしやすくなります
- 谷の位置をずらす:大きな支払いの時期を、資金に余裕のある月に寄せる。設備投資や大口の発注は、谷の時期を避けて計画します
どれが適しているかは会社によります。ただ、共通して言えるのは、選択肢が多いのは資金に余裕がある時期だけだということです。谷に入ってから動くと、条件を選ぶ余地はほとんどなくなります。
金融機関には、形を見せて相談する
季節資金の相談は、「今月足りないので貸してください」ではなく、「毎年この形になるので、この時期にこれだけ必要です」という伝え方をします。前者は突発的な資金不足に見えますが、後者は事業構造の説明です。
そのために持っていく資料は、次のようなものです。
- 過去3期分の月別売上と、季節指数を並べた表
- 今期の月別売上見込みと、その根拠
- 入金サイトと支払サイトを明記した、月次の資金繰り表
- 累積資金過不足の推移と、谷の深さ・時期
- 手元現預金と既存の借入枠、それを踏まえた不足額
- 谷を浅くするために自社で講じている手(仕入の分散、条件交渉など)
ここまで揃っていれば、必要な金額と期間の設計を一緒に考えてもらえる状態になります。季節性は弱点ではなく、説明できる構造です。説明できないまま資金が細ることのほうが、評価には響きます。
自社で確認する手順
- 過去3期分の月別売上を並べ、季節指数を計算する
- 3期とも同じ形になっているかを確認し、構造的な季節性かどうかを判定する
- 入金サイトと支払サイトを、取引先ごとに整理する
- 今期の月別売上見込みから、月次の入金と出金を組み立てる
- 月次の資金過不足を計算し、累積して谷の深さと時期を出す
- 手元現預金と比べ、不足額と、それが発生する時期を確定する
- 谷を浅くする手、埋める手、ずらす手を並べ、余裕のある時期に着手する
まとめ
季節変動そのものは、事業の性質であって、なくすものではありません。問題になるのは、その形を数字で持っていないことです。
季節指数で形を捉え、入金と支払のサイトを織り込んで月次の過不足を出し、累積して谷の深さを測る。この3ステップで、必要なピーク資金と、それが必要になる時期が具体的な金額と月として出てきます。あとは、余裕のある時期に手当てするだけです。
年間の損益だけを見ていると、この谷は見えません。月次で、現金の動きとして見ること。季節性のある事業では、これが資金繰りの出発点になります。
よくある質問
自社の資金の谷を、先に把握しませんか。
季節指数の算定から、月次資金繰り表の設計、必要資金の見積もりまで。
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