「運転資金はいくら必要ですか」——この問いに、多くの経営者が感覚で答えています。しかし所要運転資金は、回転期間さえ分かれば、電卓で計算できる数字です。ここが出せると、手元にいくら持つべきか、成長時にいくら追加で要るか、いくら借りるべきかまで、根拠を持って判断できるようになります。前半でざっくり、後半で計算まで踏み込みます。
まず、ざっくりの基本式
事業を回すのに必要な運転資金は、貸借対照表の3項目で大づかみにつかめます。
意味はシンプルです。まだ回収できていないお金と在庫に化けたお金を足し、まだ払わなくてよいお金を引く。この差額が、日々の商売を回すために立て替えている資金です。まずはこの3つを決算書から拾えば、おおよその必要額が見えます。
なぜ立て替えが生じるのか — お金が戻るまでの時間差
商売は「仕入れる→在庫を持つ→売る→回収する」という流れで進みます。この間、お金が出ていってから戻ってくるまでに時間差が生まれます。この時間差を日数で表したものが、キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)です。CCCが長い会社ほど、多くのお金を立て替え続けることになります。
回転期間で、精密に出す
より正確に出すには、各項目を「日数」に直します。計算式は次のとおりです。
在庫回転日数 = 棚卸資産 ÷(年間売上原価 ÷ 365)
仕入債務回転日数 = 仕入債務 ÷(年間仕入高 ÷ 365)
所要運転資金 = 1日あたり売上高 × CCC
この「日数×日商」の形で持っておくと、売上が変わったときの必要額も一瞬で試算できます。
計算してみる(数値例)
イメージしやすいよう、仮の数字で計算します(あくまで説明用の例です)。
- 年間売上高:3億6,500万円 → 1日あたり売上=約100万円
- 売上債権回転日数:45日 / 在庫回転日数:30日 / 仕入債務回転日数:30日
所要運転資金 = 100万円 × 45日 = 約4,500万円
つまりこの会社は、常時およそ4,500万円を立て替えている計算になります。この額を手元資金や借入でどう賄うかが、資金繰りの土台になります。
売上が伸びると、いくら追加で必要か(増加運転資金)
ここが成長企業の落とし穴です。回収・在庫・支払の条件(日数)が同じまま売上だけ増えると、所要運転資金は売上に比例して増えます。先ほどの会社の売上が1.2倍になると——
増加分 = 5,400万円 − 4,500万円 = 約900万円が追加で必要
黒字でも、この900万円を手当てできないと資金が詰まります。成長計画には、必ず増加運転資金の手当てをセットにするのが鉄則です。
必要額を圧縮する3つの打ち手
所要運転資金は「日数」を短くすると小さくできます。効きどころは3つです。
- 売上債権回転日数を短く:請求・回収を早める、前受・着手金を設計する、サイトの長い取引先を見直す
- 在庫回転日数を短く:滞留・死に筋を減らし、発注を適正化する
- 仕入債務回転日数を長く:仕入先と支払条件を交渉する(無理のない範囲で)
先の例で、回収を45日→35日に縮めるだけでCCCは35日になり、所要運転資金は約3,500万円へ。10日の短縮で、約1,000万円の資金が浮く計算です。
手元にどれだけ持つか
所要運転資金は「常に立て替えている額」なので、これを下回る手元資金では回りません。そのうえで、売上の変動・季節性・急な支払いに備えるバッファを上乗せして持つのが安全です。必要額は業種や条件で大きく変わるため、一律の「月商◯ヶ月」より、自社の回転期間から計算した実額で管理するのが確実です。
まとめ
運転資金は感覚ではなく、「1日あたり売上 × CCC」で計算できます。回転日数を把握すれば、必要額も、成長時の追加額も、圧縮余地も、すべて数字で見えます。まず自社のCCCを出すことが、資金繰りを主体的にコントロールする第一歩です。回転期間の算出から、一緒に進めましょう。