予算を立てている会社は多くあります。しかし「予算と実績を並べた表は作っているが、そこから何をすればいいのか分からない」という声もよく聞きます。差を眺めるだけでは、経営は動きません。大切なのは、差異を分解して、原因の場所を特定し、打ち手に変えることです。ここでは、その実務の順序を整理します。
予実管理は「反省会」ではなく「早期警報」
予実管理の目的は、達成できなかった理由を問い詰めることではありません。年度の着地を早い段階で予測し、まだ打ち手が残っているうちに軌道を修正することです。
期末に「結果として届かなかった」と分かっても、できることは限られます。一方、上半期の途中で「このペースなら年間でどれだけ足りないか」が見えていれば、選べる手は多くなります。予実管理は過去を評価する仕組みではなく、未来を早く知るための仕組みだと考えると、運用の設計が変わります。
まず、符号と金額の大きさから入る
差異の見方は、シンプルな引き算から始まります。ただし、収益と費用では「プラスが良い」の向きが逆になるため、社内で表記を統一しておくと混乱しません。
費用の差異 = 予算 − 実績(プラス = 使わずに済んだ)
そのうえで、金額の大きい順に並べ替えます。比率だけで見ると、小さな科目の大きな乖離に目を奪われます。まずは会社の利益に効いている順に、上位のいくつかへ視線を集中させます。
売上差異を、単価と数量に分ける
売上が予算に届かなかったとき、「値引きしたから」なのか「数が売れなかったから」なのかで、打ち手はまったく変わります。両者は分けて測れます。
単価差異 =(実績単価 − 予算単価)× 実績数量
数量差異 =(実績数量 − 予算数量)× 予算単価
単価差異がマイナスなら、値引きや構成比の変化を疑います。数量差異がマイナスなら、案件数・受注率・稼働といった営業側の指標に降りていきます。同じ「売上未達」でも、見るべき場所が違うということです。
数値例:売上は上振れ、でも利益は下振れ
仮の数字で分解してみます(説明用の例です)。
- 予算:単価 50,000円 × 数量 200個 = 売上 10,000,000円
- 実績:単価 48,000円 × 数量 230個 = 売上 11,040,000円
単価差異 =(48,000円 − 50,000円)× 230個 = マイナス460,000円
数量差異 =(230個 − 200個)× 50,000円 = プラス1,500,000円
検算:マイナス460,000円 + プラス1,500,000円 = プラス1,040,000円
売上は予算を超えました。しかし内訳を見ると、単価を2,000円下げて、数量を伸ばしたという構造です。これが意図した戦略なのか、現場の判断で値引きが広がった結果なのかで、評価は正反対になります。
限界利益で見ると、打ち手が変わる
売上の増減だけでは、会社に残る利益は分かりません。変動費を差し引いた限界利益で見ます。ここでは変動費を1個あたり30,000円とします。
実績の限界利益 =(48,000円 − 30,000円)× 230個 = 4,140,000円
限界利益差異 = プラス140,000円
内訳:単価差異 マイナス460,000円 + 数量差異(230個 − 200個)×(50,000円 − 30,000円)= プラス600,000円
売上は1,040,000円も増えたのに、会社に残った限界利益は140,000円しか増えていません。値引き分は、そのまま利益から差し引かれるからです。売上の伸びを喜ぶ前に、この一段を見る習慣が要ります。
固定費差異まで通して、営業利益につなぐ
最後に固定費を重ねると、営業利益の差異まで一本でつながります。固定費の予算を3,500,000円、実績を3,650,000円とします。
= プラス140,000円 − 150,000円 = マイナス10,000円
検算:予算の営業利益 500,000円 / 実績の営業利益 490,000円 / 差 マイナス10,000円
売上は上振れ、限界利益も上振れ、それでも営業利益は下振れました。この一本の線が引けると、経営会議の議論は「売れたか売れなかったか」から、「どこで利益が漏れたか」へ移ります。
売上の差異だけを追いかけると、値引きで数量を積んだ月を「好調」と読み違えます。
差異を打ち手に変える運用手順
- 月次決算を締める日を固定し、締まった直後に差異を確認する
- 金額の大きい上位から、売上は単価と数量に、費用は変動費と固定費に分ける
- 差異ごとに「一時的な要因か、構造的な要因か」を分類する
- 構造的な要因には、責任者と期限を付けた打ち手を1つ決める
- 年間の着地見込みを更新し、残り月で取り戻せる範囲かを確認する
- 取り戻せない場合は、予算の未達を前提に資金繰りへの影響を先に見る
特に5と6が抜けがちです。差異分析は、最終的に年間の着地と資金繰りにつながって初めて経営判断の材料になります。
予算そのものの精度を上げる
毎月大きくずれる場合、実行側ではなく予算側に原因があることもあります。次の点を点検してみてください。
- 積み上げの根拠:売上が「前年比の伸び率」だけで置かれていないか。単価と数量に分けて置けているか
- 季節性:年間予算を12等分していないか。繁閑の波を月ごとに反映できているか
- 費用の連動:売上が動いたときに、変動費が自動で連動する作りになっているか
- 前提の明示:単価、稼働率、人員計画などの前提が、後から確認できる形で残っているか
- 見直しの手続き:期中に前提が変わったとき、どの手順で予算を更新するかが決まっているか
予算は当てるためのものではなく、ズレたときに原因をたどれる構造であることが重要です。単価と数量に分けて置いておくだけで、差異の分解は格段に楽になります。
まとめ
予実管理は、差を並べる作業ではありません。売上差異を単価と数量に分け、限界利益と固定費を通して営業利益差異までつなぐ。そのうえで、一時的な要因と構造的な要因を分け、年間の着地と資金繰りに接続する。ここまでやって、はじめて数字が打ち手に変わります。自社の予実表が、その構造になっているか点検してみませんか。
よくある質問
自社の予実表を、打ち手につながる形に組み直しませんか。
差異の分解から、着地見込みと資金繰りへの接続まで。
初回相談は無料です。現状をお聞かせください。
まずは情報収集から、という方は 会社紹介資料をダウンロード(無料)